教員の過労死問題〜あなたは大丈夫ですか?〜

突然ですが、以下の項目に当てはまるものはありますか?

正直に答えてみてください。

  • 平日、家に帰るのが22時を過ぎることが週に3日以上ある
  • 土日のどちらかは仕事をしている
  • 休憩時間に落ち着いて食事を取れない日が多い
  • 生徒や保護者対応で精神的に疲れることが多い
  • 業務に追われ、教材研究の時間が十分に取れない
  • 同僚の休職により、自分の業務が増えている

正直申し上げますと、1つでもチェックが付いた方は要注意です。

教員の皆さん、

あなたの働き方は健康的ですか?

「今日も終電近くまで仕事か…」

「休日なのに、また部活の指導…」

「いつになったら授業の準備が終わるんだろう…」


こんな思いを抱きながら日々を過ごしていませんか?

2021年、福岡市の小学校教諭が急性心臓病で亡くなりました。(2023年12月22日の読売新聞オンラインより)

4週間で129時間を超える残業をしていたといいます。

私自身も教育現場に勤めていた経験がありますが、正直これは決して珍しいケースではありません。

教育現場での過労死は、私たちが考える以上に身近で起きているのです。

地方公務員災害補償基金が令和5年に出した令和3年度過労死等の公務災害補償状況についてによると

教職員の過労死関連で

令和3年度に17件が公務災害として受理、そのうち4件が死亡事案でした。

本記事では、教員の過労死問題の実態を明らかにし、その危険性について警鐘を鳴らしていきます。

  • なぜ教員は過労死のリスクが高いのか?
  • 過労死を引き起こす要因とは?
  • 健康被害のリスクにはどのようなものがあるか?
  • 過労を防ぐためには何ができるのか?

あなたの命を守るため、そして大切な生徒たちのためにも、ぜひ最後までお読みください。

健康であってこそ、良い教育ができるのです。

目次

月の残業時間が80時間を超えている中学校教員が3割以上もいる

皆さんは自分の残業時間を正確に把握していますか?

  • 先月の残業時間は何時間でしたか?
  • 休日出勤は何日ありましたか?
  • 帰宅後や休日に仕事をしていませんか?

もし、これらの質問に正確に答えられないとしたら、既に危険な兆候かもしれません。

自身の労働時間を正確に把握し、健康管理をすることが、教員としての第一歩なのです。

ここでは、教員の残業時間の実態過労死ラインについて、具体的なデータを基に見ていきましょう。

過労死ライン

一般的に過労死ラインについて、残業時間が月80時間以上を超えなければ大丈夫という誤った認識があるのが事実です。

厚生労働省による「過労死等を防止するための対策BOOK」によると、脳 ・ 心臓疾患に係る労災認定基準においては時間外 ・ 休日労働が月45時間を超えると健康障害のリスクが徐々に高まりだすと報告されています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001155000.pdf

文部科学省の調査結果

下記の図は2022年度に文部科学省が実施した教員勤務実態調査の結果を元に私が割り出した数値の図です。

https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_zaimu01-000029160_2.pdf

この数字が意味するところは極めて深刻です。

なぜなら…

  • 月の残業時間が45時間を超えている小学校教員が6割以上
  • 月の残業時間が80時間を超えている小学校教員が1割以上
  • 月の残業時間が45時間を超えている中学校教員が7割以上
  • 月の残業時間が80時間を超えている中学校教員が3割以上

ということなのです…。

半数以上の教員が過労死のリスクと隣り合わせで現在も働いているのです!

隠れた残業時間の問題

しかも、実態はさらに深刻かもしれません。

なぜなら、上記の調査結果には「隠れた残業時間」が含まれていない可能性が高いからです。

教員の隠れた残業時間
持ち帰り仕事

多くの教員が、授業の準備や採点作業を自宅に持ち帰っています。

部活動指導

特に中学・高校では、勤務時間外や休日の部活動指導が常態化しています。

生徒・保護者対応

勤務時間外での生徒指導や保護者との連絡も頻繁に発生します。

これらの時間を含めると、実際の労働時間は調査結果を大きく上回る可能性があります。

教員の過労死事例

これまで見てきた長時間労働の実態は、単なる数字ではありません。

実際に多くの教員が命を落とし、または重篤な健康被害に苦しんでいます。

ここでは、実際の過労死事例を見ていきましょう。

事例1:福岡市の小学校教諭の死

2021年11月、福岡市の市立小学校で働く40歳の男性教諭が、急性心臓病で亡くなりました。

  • 直前4週間の残業時間:129時間超
  • 担当業務:教務主任、学級担任(病休教員の代行
  • 労災認定:2023年5月に「公務災害」と認定

遺族の証言によると、「夜中に教務主任の仕事をこなし、帰宅してもほとんど寝る時間がなかった」とのことです。

教員の代行まで任されるなど、過重な業務が重なっていたことが窺えます。

事例2:富山県の中学校教諭の死

2016年8月、富山県滑川市立中学校の40代男性教諭が、くも膜下出血で亡くなりました。

  • 直前1~2か月の時間外勤務:月120時間前後
  • 担当業務:3年生担任、部活動顧問
  • 労災認定:2018年4月に公務災害認定

この教諭は、倒れる前の53日間で休みはたった1日だけだったといいます。

土日も部活動の指導や大会引率があり、休む暇もなく働き続けていました。

過労死等防止対策白書のデータ

これらの事例は、決して特殊なケースではありません。

地方公務員災害補償基金が令和5年に出した令和3年度過労死等の公務災害補償状況についてによると

  • 令和3年度の公務災害受理件数
    • 17件(うち死亡4件)
  • 令和2年度の公務災害受理件数
    • 20件(うち死亡8件)
https://www.chikousai.go.jp/gyoumu/toukei/pdf/r3/r3karousi.pdf

注意すべきは、これらの数字は氷山の一角に過ぎないということです。

公務災害として申請されない、または認定されないケースも多数存在すると考えられます。

他人事ではない現実

ここで紹介した事例や統計は、決して特別なものではありません。

むしろ、多くの教員が日々直面している現実なのです。

あなたやあなたの同僚は、どうでしょうか?

  • 睡眠時間は十分に確保できていますか?
  • 休日にゆっくりと休めていますか?
  • 家族との時間は取れていますか?

これらの質問に「いいえ」と答えた方は、要注意です。

過労死を引き起こす要因

過労死の事例は、決して偶然起きたものではありません。

教育現場には、教員を過労死へと追い込んでしまう構造的な問題が存在しています。

ここでは、その主な要因を詳しく見ていきましょう。

慢性的な長時間労働

教員の仕事は、授業が終わってからが本番と言っても過言ではありません。

  • 授業の準備と教材研究
  • 生徒の提出物のチェックと採点
  • 学級・学年運営に関する事務作業
  • 保護者対応や連絡
  • 会議や打ち合わせ

これらの業務をこなすために、多くの教員が夜遅くまで学校に残っています。「残業」という概念すら薄れ、長時間労働が当たり前になっているのです。

休日出勤の常態化

教員にとって、土日は決して休日とは限りません。

  • 部活動の指導や大会引率
  • 補習授業の実施
  • 学校行事の準備

特に部活動顧問を務める中学・高校の教員は、週末も仕事に縛られがちです。結果として、心身をリフレッシュする時間が確保できず、疲労が蓄積していきます。

心理的負荷の高い業務

教員の仕事は、単に知識を教えるだけではありません。生徒一人一人の成長に寄り添い、時には厳しい指導も必要です。

  • 問題を抱える生徒への対応
  • いじめや不登校の問題解決
  • 保護者からのクレーム対応

これらの業務は、時として大きな精神的ストレスを伴います。このストレスが慢性化すると、心身の健康を著しく損なう可能性があります。

休憩時間の確保困難

多くの教員が、休憩時間さえも十分に取れていないのが現状です。

  • 給食の時間は生徒と一緒に食事指導
  • 休み時間は生徒からの質問対応や次の授業の準備
  • 放課後は部活動指導や会議

休憩時間が確保できないことで、一日中緊張状態が続き、心身の疲労回復が困難になります。

際限のない業務

教育現場には、「これで十分」という明確な基準がないことも大きな問題です。

  • より良い授業をするための際限のない教材研究
  • 生徒一人一人に合わせた個別指導の準備
  • 校内美化や環境整備

教員の献身的な努力が、皮肉にも自身の健康を蝕んでいくのです。

人員不足と業務の偏り

教員の絶対数が不足していることも、過重労働の原因となっています。

  • 病気休職者の代替
  • 経験豊富な教員への業務の集中
  • 若手教員の指導・サポート

人員が足りないために、一人の教員が複数の役割を担わざるを得ない状況が生まれています。

本当にこれが教員の仕事?

教員の仕事は、単に授業をすることだけではありません。

近年、本来の教育活動とは言えない業務が増加し、教員の負担が著しく増大しています。ここでは、「本当にこれが教員の仕事なのか?」と疑問を感じざるを得ない業務について考えてみましょう。

グレーゾーンの業務

以下の業務は、教員が担うべきか議論の余地があるものです。

部活動の指導

  • 休日や長時間の指導が常態化
  • 専門知識がない競技の指導も
  • 教員の私生活を圧迫

校内清掃や修繕

  • 日常的な清掃から大掃除まで
  • 簡単な修繕作業
  • 専門業者に依頼すべき作業も

事務作業

  • 各種調査・アンケートへの回答
  • 会計処理
  • 備品管理

給食の配膳・指導

  • 給食の準備と後片付け
  • 食育指導

登下校の見守り

  • 通学路での立哨指導
  • 不審者対策

保護者対応

  • 学校行事の説明会
  • 個別の相談対応(休日や夜間も)

地域行事への参加

  • 地域のお祭りやイベントへの協力
  • 休日の児童・生徒の引率

民間企業との比較

これらの業務の多くは、民間企業では別部署や専門職が担当するものです。

  • 部活動指導 → スポーツクラブのコーチ
  • 清掃・修繕 → 施設管理会社
  • 事務作業 → 一般事務職
  • 給食関連 → 栄養士、調理師
  • 登下校見守り → 警備会社、地域ボランティア
  • 保護者対応 → カスタマーサービス部門
  • 地域行事 → 地域団体、ボランティア

民間企業では、従業員の本来業務に集中できる環境づくりが重視されています。しかし、学校現場ではこれらの業務が全て教員の仕事として扱われがちです。

「子どものため」という呪縛

多くの教員は、「子どものため」という思いから、これらの業務も引き受けてしまいがちです。しかし、この考え方には危険性があります。

  1. 教員の本来の仕事(授業準備、生徒指導など)の質が低下する
  2. 長時間労働により、教員の心身の健康が損なわれる
  3. 「やりがい搾取」につながる可能性がある

結果として、「子どものため」と思って行動することが、逆に子どもたちの教育の質を下げてしまう可能性があるのです。

業務の見直しの必要性

教育の質を高め、同時に教員の健康を守るためには、以下のような取り組みが必要です。

  1. 教員の本来業務の明確化
  2. 専門スタッフの積極的な活用(部活動指導員、スクールカウンセラーなど)
  3. 業務の外部委託の推進
  4. 地域や保護者との協力体制の構築
  5. ICTの活用による業務効率化

これらの取り組みにより、教員が本来の教育活動に専念できる環境を整えることが急務です。

健康被害のリスク

長時間労働や過度のストレスは、教員の健康に深刻な影響を及ぼします。ここでは、過労がもたらす健康被害のリスクについて、身体的影響、精神的影響、そして家庭生活への影響の3つの観点から詳しく見ていきます。

身体的影響

過労は、様々な身体的問題を引き起こす可能性があります。

循環器系疾患

  • 高血圧
  • 心筋梗塞
  • 脳卒中 長時間労働は血圧上昇と関連があり、特に週60時間以上の労働で顕著になるとの研究結果があります。

消化器系疾患

  • 胃潰瘍
  • 十二指腸潰瘍
  • 過敏性腸症候群 ストレスや不規則な生活が原因で、胃酸の過剰分泌や腸の動きの乱れが起こりやすくなります。

筋骨格系の問題

  • 肩こり
  • 腰痛
  • 頸椎ヘルニア 長時間のデスクワークや立ち仕事により、特定の部位に負担がかかります。

免疫系の低下

  • 風邪やインフルエンザにかかりやすくなる
  • 疲労回復が遅くなる 慢性的な疲労により、身体の防御機能が低下します。

生活習慣病のリスク増大

  • 糖尿病
  • 脂質異常症
  • メタボリックシンドローム 不規則な生活や運動不足により、これらの疾患のリスクが高まります。

精神的影響

過労は精神面にも大きな影響を与えます。

うつ病

  • 気分の落ち込み
  • 意欲の低下
  • 不眠 長時間労働とうつ病には強い相関関係があることが、複数の研究で示されています。

不安障害

  • 過度の心配や恐怖
  • パニック発作 常に緊張状態にさらされることで、不安障害のリスクが高まります。

バーンアウト症候群

  • 極度の疲労感
  • 仕事への無関心
  • 達成感の喪失 教職特有の問題として、献身的な教員ほどバーンアウトのリスクが高いことが指摘されています。

認知機能の低下

  • 集中力の減退
  • 記憶力の低下
  • 判断力の鈍化 慢性的な睡眠不足により、脳の機能が低下する可能性があります。

自殺リスクの上昇

  • 希死念慮の増加 過度のストレスや長時間労働が続くと、最悪の場合、自殺のリスクも高まります。

家庭生活への影響

過労は個人の健康だけでなく、家庭生活にも深刻な影響を及ぼします。

家族との時間の減少

  • 子育てへの参加機会の減少
  • パートナーとのコミュニケーション不足 長時間労働により、家族と過ごす時間が著しく減少します。

家事・育児の負担増

  • 家事の偏り
  • 育児ストレスの増大 一方の配偶者に負担が集中し、家庭内の不和の原因になることも。

ワーク・ライフ・バランスの崩壊

  • 趣味や自己啓発の時間が取れない
  • 休養が十分に取れない 仕事以外の時間が確保できず、人生の質が低下します。

経済的影響

  • 医療費の増加
  • 休職による収入減 健康悪化により、家計にも影響が及ぶ可能性があります。

早期発見・早期対処の重要性

これらの健康被害は、早期に気づき適切に対処することで、多くの場合予防や改善が可能です。以下の症状に心当たりがある場合は、すぐに専門家に相談することをお勧めします。

  • 慢性的な疲労感
  • 睡眠の質の低下
  • 食欲の変化
  • 気分の落ち込みが続く
  • 仕事への意欲が著しく低下している

あなたの健康は、生徒たちの未来にも直結します。

自身の健康を守ることは、教育者としての責任でもあるのです。

過労死を防ぐために

ここまで、教員の深刻な過労死問題について触れてきましたが、働き方改革が進んできているのも事実です。

▼教員の働き方改革の現状はこちら▼

ただ、学校現場が変わる前に自分自身が失われてしまっては意味がありません。

個人レベルで過労死を防ぐための対策をしていかなくてはいけません。

まずは自身の労働時間を正確に把握する

  • 1週間、全ての業務時間(持ち帰り仕事含む)を記録してみる
  • 月間の残業時間を計算し、80時間を超えていないか確認する
  • 労働時間が長くなりすぎている場合は、上司や同僚に相談する

業務の優先順位付け

  • To-doリストを作成し、重要度と緊急度でタスクを分類する
  • 「重要だが緊急ではない」業務(授業準備、自己研鑽など)の時間を確保する
  • 「緊急でも重要でもない」業務は思い切って削減する

「ノー」と言える勇気を持つ

  • 新たな業務を引き受ける前に、現在の業務量を考慮する
  • 無理な要求には丁寧に、しかし明確に断る
  • 「生徒のため」という言葉に惑わされず、自身の健康も重要であることを認識する

効率的な働き方の実践

  • 集中力が高い時間帯を把握し、重要な業務をその時間に行う
  • 会議の時間を短縮し、議題を事前に明確化する
  • ICTツールを活用し、業務の効率化を図る

健康管理の徹底

  • 十分な睡眠時間を確保する(最低6時間以上)
  • 規則正しい食事と適度な運動を心がける
  • ストレス解消法を見つけ、実践する(趣味、瞑想など)

自身の健康を第一に考えましょう!

まとめ:健康が第一、そして未来の教育のために

ゆとり転職(まとめ)

この記事を通じて、過労死問題の深刻さと自身の健康管理の重要性を理解していただけたでしょうか。

私たちが見てきたように、教員の過労死は決して他人事ではありません。長時間労働、休日出勤の常態化、心理的負荷の高い業務など、様々な要因が複雑に絡み合い、教員の心身を蝕んでいます。

ここで、もう一度強調したいのは以下の点です。

  1. あなたの健康が最優先です:生徒のためと思って無理を重ねることは、結果的に質の高い教育の妨げになります。
  2. 変化は可能です:一人一人が声を上げ、行動することで、教育現場は確実に変わっていきます。
  3. 小さな一歩から始めましょう:完璧を目指すのではなく、今日からできる小さな改善から始めてください。
  4. 協力が力になります:同僚や管理職、保護者、地域と協力することで、より大きな変化を生み出せます。
  5. 自己肯定感を持ちましょう:あなたの仕事は重要で価値があります。でも、それはあなた自身の人生と健康を犠牲にしてまで行うべきものではありません。

教育は未来への投資です。

しかし、その未来を作る教員自身が健康で幸せでなければ、真の意味での教育は成り立ちません。

今日から、自分自身のために、そして生徒たちのより良い未来のために、新しい一歩を踏み出しましょう。

あなたの変化が、教育現場全体を変える大きなうねりとなるのです。

健康で充実した教員生活を送れますように。

そして、その先に、より良い教育の未来が広がっていますように。

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