教員の仕事、このままじゃやってられない…
給特法が改正されるって聞いたけど、本当に働き方は変わるの?
残業代も出ないのに、休日も潰れる。これって普通なの?
そんな想いを抱えている先生方も多いのではないでしょうか?
私自身、教員時代に長時間労働や休日出勤に悩まされた経験があります。
そして、その根本にある「給特法」という法律の存在を知り、驚いたことを覚えています。
2023年5月13日、中央教育審議会の「質の高い教師の確保特別部会」によると
教職調整額が4%から10%以上に引き上げられる
と言われています。
もしこれが実現すると、約50年ぶりの大幅な増額(年収ベースでは24万円以上の増加)となります。
いつから給料あがるのかな?
結論を先に言うと「具体的にいつから?」というのはまだ決まっていません。
しかし、2024年になって動きが出てきているのは事実です。
今回は、給特法の問題点と、最近の改正の動きについて詳しくお伝えします。
教職の未来がどう変わっていくのか、そして私たち教員にはどのような選択肢があるのか、一緒に考えていきましょう!
そもそも給特法とは? ~なぜ教員には残業代が出ないのか~
まず、給特法(正式名称:公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)について詳しく説明します。
給特法の概要
- 1971年に制定された法律
- 公立学校の教員の給与や労働条件を定めている
- 残業代を支給しない代わりに、給料月額の4%を「教職調整額」として支給
- 「超勤4項目」以外の時間外労働は原則として命じないことを規定
超勤4項目とは
- 校外実習その他生徒の実習に関する業務
- 修学旅行その他学校の行事に関する業務
- 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
- 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務
給特法の対象者
給特法の対象となるのは、以下の公立学校に勤務する教育職員です。
- 小学校
- 中学校
- 義務教育学校
- 高等学校
- 中等教育学校
- 特別支援学校
- 幼稚園
ここでいう教育職員とは、校長(園長)、副校長(副園長)、教頭、主幹教諭、指導教諭、教諭、養護教諭、栄養教諭、助教諭、養護助教諭、講師、実習助手、寄宿舎指導員を指します。
私立学校の教員はこの法律の対象外です。
なぜこんな法律ができたの?
給特法ができた背景には、教員の仕事の特殊性があります。
自発性・創造性が必要な仕事
- 授業準備、教材研究、生徒指導など、教員の裁量に委ねられる部分が大きい
- 個々の生徒の特性に合わせた対応が求められる
正解や上限がない仕事
- 教育の成果は短期間で測れないことが多い
- 常に改善や工夫の余地がある
学校外での活動がある
- 家庭訪問
- 地域行事への参加
- 自己研修や研究会への参加
長期休暇(夏休みなど)がある
- 一般的な労働者とは異なる勤務形態
これらの特徴から、一般の労働者と同じように時間で管理するのは難しいと考えられました。
当時の文部省(現在の文部科学省)は、教員の仕事を時間で区切ることは適切でないと判断し、この法律を制定したのです。
他の労働者とは違うと思われたんだね…。
給特法制定の経緯
給特法が制定されるまでの経緯を簡単に振り返ってみましょう。
1948年:公務員の給与制度改革
- 教員は週48時間以上勤務するものとして、一般の公務員より1割程度高い給料が支給されることに
- ただし、残業代は支給されないこととなる
1966年頃:「超勤訴訟」の発生
- 教員が正規の勤務時間外に仕事をする実態が問題視される
- 残業代の支給を求める訴訟が全国各地で起こる
1966年度:文部省による実態調査
- 教員の勤務状況について1年間の調査を実施
1968年:教育公務員特例法改正案の提出(廃案)
- 教員の時間外勤務に対して「教職特別手当」を支給する案
- 国会で廃案となる
1971年:給特法の成立
- 人事院の提案を受け、教職調整額による支給方式を採用
このような経緯を経て、給特法は成立しました。当初は教員の待遇を守るための法律でしたが、時代とともにその役割が変化していったのです。
50年以上も前にできた法律なんだね。そりゃ実態に伴わないわけだ…。
給特法の問題点 – 「定額働かせ放題」の実態
給特法には、大きく分けて3つの問題があります。それぞれの問題点を詳しく見ていきましょう。
教職調整額4%の根拠が古い
教職調整額4%の根拠となったのは、1966年に行われた実態調査です。
- 1966年の1ヶ月あたりの平均残業時間
- 小学校:約5時間20分(全体の約3.4%)
- 中学校:約10時間(全体の約6.4%)
出典:国立国会図書館 調査及び立法考査局より1ヶ月あたりを4週として計算
- 令和4年現在の1ヶ月あたりの平均残業時間
- 小学校:約45時間(全体の約29%)
- 中学校:約50時間20分(全体の約32%)
出典:教員勤務実態調査(令和4年度)集計より平日を20日として計算
補足:簡単のため、月の勤務日数を20日、1日の稼働時間を7時間45分として計算
つまり1966年の時は小学校教員の残業時間が総労働時間の約3.4%、中学校教員の残業時間が総労働時間の約6.4%で、平均をすると4%に近い数字のため、納得はいきますが、現在の残業時間からすると全く当てはまらない状況となっているのです。
もし同じ理屈なら今の教員は教職調整額が30%じゃないと納得できないよね。
教員の残業時間が大幅に増加しているのにも関わらず、教職調整額は50年以上にわたって4%のままということが非常に問題なんです。
残業時間が増加してしまった
学校に求められる役割の拡大
- いじめ・不登校対応
- 特別支援教育の充実
- キャリア教育の推進
- ICT教育の導入 など
保護者対応の複雑化
- モンスターペアレントの増加
- SNSを介したトラブルの増加
部活動指導の負担増
- 休日の指導
- 大会引率
- 保護者対応
事務作業の増加
- 各種報告書の作成
- 個別の指導計画の作成
- ICT機器を使った業務 など
1966年に比べて、学校現場で教員に求められることが急激に増えてしまったことも問題なんです。
多くの教員の仕事が労働と見なされない
給特法では、先述した超勤4項目以外の時間外労働は原則として命じないことになっています。
しかし、実際には様々な業務が増え、これらの項目に該当しない残業が当たり前になっているのが現状です。
ここで大きな問題なのが、これらの業務は「自発的」なものとみなされ、労働ではないとされている点です。
突然ですが、皆さんは埼玉教員超勤訴訟をご存知でしょうか?
埼玉教員超勤訴訟
教員の時間外労働に残業代が支払われていないのは違法だとして、埼玉県内の市立小学校の男性教員が県に約242万円の未払い賃金の支払いを求めた訴訟の上告審で、最高裁判所が3月8日付で教員側の上告を棄却する決定をした訴訟のことです。詳しくは田中まさおさんのサイトをチェックしてみてください!
出典:埼玉教員超勤訴訟・田中まさおのサイト
この訴訟の中で、教員の労働として認められない仕事に現場の教員が怒り心頭になっているのです。
判決で労働と認められなかった例
- 教材研究
- 保護者対応
- 児童からの相談
- 教室の整理整頓や点検
- 掲示物や作文のペン入れ
- 提出物の内容確認
- ドリルやプリント、小テストの採点
- ノートの点検や添削
- 週予定や学級便りの作成
- 学校行事の準備
- 学校行事の準備
- パトロール
- 授業参観の準備
「一コマ四十五分間の授業のための準備は、5分間を労働時間と認める」
この言葉を聞いた時は流石にブチギレましたよね!
この状況が長時間労働が常態化し、「定額働かせ放題」と揶揄される状況が生まれているのです。
給特法改正の動き – 本当に変わるの?
しかし、そんな給特法ですが、最近になってようやく改正の動きが活発になってきているのです。
主な動きを時系列で詳しく見ていきましょう。
中央教育審議会の答申(2019年1月)
中央教育審議会は「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」という答申を出しました。
主な内容
- 勤務時間管理の徹底
- ICTの活用等による勤務時間の客観的な把握
- 労働安全衛生法に基づく取り組み
- ストレスチェックの実施
- 産業医との連携強化
- 在校等時間の上限ガイドライン導入
- 1か月の時間外在校等時間について、45時間以内
- 1年間の時間外在校等時間について、360時間以内
この答申を受けて、文部科学省は様々な施策を打ち出しています。
改正給特法の施行(2022年4月)
2019年12月に成立した改正給特法が2022年4月から施行されました。
主な改正点
- 1年単位の変形労働時間制導入
- 繁忙期の所定労働時間を長くし、閑散期の所定労働時間を短くすることが可能に
- 長期休業期間の短縮と、学期中の休日確保が可能に
- 例:夏休み期間を短縮し、その分を学期中の休日に充てる
この改正により、教員の働き方に一定の柔軟性が生まれることが期待されています。
自民党の政策提言(2023年5月)
自民党は「令和の教育人材確保実現プラン」という政策提言をまとめました。
主な内容
- 教職調整額を「少なくとも10%以上に増額」
- 現行の4%から大幅な引き上げを提案
- 将来的に月の時間外在校等時間を20時間程度に
- 具体的な数値目標を設定
この提言は、与党である自民党からのものであり、今後の政策に大きな影響を与える可能性があります。
中央教育審議会特別部会の了承案(2023年5月)
2023年5月13日、中央教育審議会の「質の高い教師の確保特別部会」が、教員確保に向けた総合的な対策案を了承しました。この対策案は、教員の処遇改善や働き方改革に関する具体的な提案を含んでおり、今後の教育政策に大きな影響を与える可能性があります。
主要な提案内容とその意義について詳しく見ていきましょう。
教職調整額の引き上げ
提案内容
- 教職調整額を現行の4%から10%以上に引き上げる
意義と影響
- 約50年ぶりの大幅な増額となる
- 教員の基本給が約6%増加することになり、月額で約2万円以上の増加が見込まれる
- 年収ベースでは24万円以上の増加となる可能性がある
課題
- 財源の確保(試算では約2100億円の公費負担増)
- 教職調整額の増額だけでは長時間労働の根本的解決にはならない可能性
小学校における教科担任制の拡大
提案内容
- 現在5、6年生で実施している教科担任制を3、4年生にも拡大する
意義と影響
- 教員の専門性を活かした指導が可能になる
- 教員一人あたりの授業準備の負担が軽減される
- 児童にとっては、より専門的な指導を受けられる機会が増える
課題
- 教員の配置や時間割編成の複雑化
- 学級担任制のメリット(児童との密接な関係構築など)との両立
中堅教員向けの新たな職の創設
提案内容
- 若手教員へのサポートと学校内外の調整を担う、中堅層向けの新たな職を創設する
意義と影響
- 中堅教員のキャリアパスの多様化
- 若手教員の育成強化
- 学校組織のマネジメント力向上
課題
- 新たな職の具体的な役割と権限の明確化
- 既存の主幹教諭や指導教諭との役割分担
勤務間インターバルの導入
提案内容
- 勤務終了から次の勤務開始までの間に一定の休息時間(インターバル)を設ける
- 休息時間は11時間を目安として推進する
意義と影響
- 教員の心身の健康維持
- 長時間労働の抑制
- 仕事の効率化・時間管理意識の向上
課題
- 部活動や行事などによる早朝・夜間の勤務との両立
- 学校現場の実情に合わせた柔軟な運用方法の検討
その他の重要な提案
学級担任手当の加算
- 業務負担の重い学級担任の手当を加算する
管理職手当の改善
- 校長や教頭などの管理職手当を改善する
在校時間の公表
- 教育委員会ごとに教員の在校時間を公表する
残業時間の段階的削減目標
- 残業時間が月80時間超の教員をゼロにすることを最優先課題とする
- 将来的に平均月20時間程度を目指す
今後の展望と課題
給特法改正のタイムライン(予測)
令和6年度(2024年度)
- 給特法改正案の検討と策定
- 教職調整額引き上げの具体的な金額の決定
令和7年度(2025年度)
- 給特法の改正案を国会提出(通常国会)
- 小学校中学年(3・4年生)への教科担任制拡充開始
- 若手教師支援のための定数改善開始
- 生徒指導担当教師の全中学校配置開始
令和8年度(2026年度)
- 改正給特法の施行(予定)
- 教職調整額の増額実施(予定)
- 「新たな職」の任用・配置開始
今後については、冒頭でも申し上げたとおり、予測になってしまいます。
「具体的にいつから?」というのはまだ決まっていません。
社会の流れを追いながらも今目の前の自分の働き方について見直していかなければいけません。
教職の未来はどうなる? – 私たちにできること
法律や制度の改革を待つだけでなく、私たち教員一人一人にできることもあります。
自身の勤務時間を把握し、管理する
- タイムカードやICTツールを活用して、正確な勤務時間を記録する
- 自分の働き方の傾向を分析し、改善点を見つける
業務の優先順位付けと効率化を心がける
- 重要度と緊急度のマトリックスを使って、タスクを整理する
- ICTツールを活用して、業務の効率化を図る
教職員組合や関係団体の活動に関心を持つ
- 組合活動に参加し、現場の声を届ける
- 教育政策に関する勉強会や講演会に参加する
メンタルヘルスケアに取り組む
- ストレス管理の方法を学び、実践する
- 必要に応じて、産業医や専門家に相談する
これらの取り組みを通じて、私たち教員一人一人が自身の働き方を見直し、よりよい教育環境を作っていくことが重要です。
まとめ:給特法改正の最新を追う
給特法改正の動きは、教職の未来に大きな影響を与える可能性があります。しかし、法律が変わっただけでは現場は変わりません。私たち一人一人が自身の働き方を見直し、よりよい教育環境を作っていく必要があります。
そして、もし現在の環境で十分な改善が見込めないと感じたら、転職も一つの選択肢として考えてみてはいかがでしょうか。教育に関わる仕事は学校現場だけではありません。
その際には、以下の点を意識してみてください。
- 自分の強みや専門性は何か
- どのような働き方を望んでいるか
- 教育にどのような形で関わりたいか
- 新しいスキルを身につける必要はあるか
給特法改正の動きを、自身のキャリアを見直すきっかけにしてみてください。
そして、どんな形であれ、子どもたちの未来のために貢献できる道を探っていきましょう。
教育は社会の基盤です。私たち教育に携わる者が、いきいきと働き、自己実現できる環境を作ることは、子どもたちの未来を守ることにもつながります。一人一人が自分にできることを考え、行動に移していくことが、教育全体を変える大きな力となるのです。
皆さんの挑戦を心から応援しています!
ありがとうございました!